① この解毒剤が効く剤・効かない剤
アトロピンとプラリドキシムの2剤が入っています。効くのは「コリンエステラーゼを阻害するもの」だけです。
それ以外の剤にはまったく効きません。
| 判定 | 剤・物質 |
| 効く |
神経剤:サリン(GB)/タブン(GA)/ソマン(GD)/VX/シクロサリン(GF)/ノビチョク
有機リン系農薬:パラチオン、マラチオン、フェニトロチオン(スミチオン)等
カーバメート系農薬にはアトロピンのみ有効。プラリドキシムは使わないのが原則とされる |
| 効かない |
シアン(血液剤)/びらん剤(マスタード・ルイサイト)/窒息剤(ホスゲン)/催涙剤(CS・OC)/
塩素・アンモニア等の有毒ガス/フェンタニル等のオピオイド(縮瞳が似るが別物。ナロキソンの適応) |
縮瞳はオピオイドでも起きます。神経剤では分泌物の過多(鼻汁・流涎・気道分泌)とけいれん・筋のぴくつきを伴うのが鑑別点です。
② 使用判断チェックリスト
該当するものをタップしてください。下に判定が出ます。
③ 対象者と優先順位
- 一般市民の傷病者、および対応中の部隊員のうち体調が悪化した者(小児を除く)
- 第一優先:手助けがないと自力で動くことができない者
- 第二優先:当初は自力で移動可能だったが、その後動けなくなった者
- 原則として自力で動くことができない傷病者を対象とする
- 神経剤の自覚症状を発症した活動隊員は、自力で動けなくなる前に自ら注射する
判断や実施に時間を要する場合は、救出および医療機関への搬送を優先します。
④ 症状から本数を決める
当てはまる症状をタップしてください。
⑤ 中に入っている成分
| 成分 | はたらき |
アトロピン 1本あたり2.1mg |
神経の受け皿(ムスカリン受容体)をふさいで、過剰なアセチルコリンの作用を止める。
鼻汁・唾液・気道分泌を減らし、気道の締め付けを緩める。徐脈も戻す。
※ 筋肉のぴくつき・脱力には効かない。そこはプラリドキシムの役目 |
プラリドキシム 1本あたり600mg(PAM・2-PAM) |
神経剤にくっつかれて働けなくなった酵素(コリンエステラーゼ)を元に戻す。
呼吸の筋肉の麻痺を回復させるのが最も重要な効果。
※「老化(エイジング)」が進むと元に戻せなくなる。ソマンは数分で老化するため、早期投与が決定的 |
1本の中で2剤が分かれており、押すと1本の針から順番に両方が入ります。
大腿部の外側中央に、衣服の上からでも注射できます。
⑥ 打ち方
- 使う直前まで灰色の安全キャップを外さない
- 緑色の先(針側)には絶対に触れない
- 利き手で中央をしっかり握り、緑の先を下に向ける
- もう一方の手で灰色の安全キャップを引き抜く
- 注射部位は大腿部の外側中央。ポケットの中を空にする。脂肪が少ない人は、筋肉をつまんで厚みをつくる
- 緑の先を90度で押し当て、作動するまで強く押し込む。作動後も約10秒押し当てたまま保持
- 抜いて緑の先を見る。針が見えていれば薬は入っている。見えなければ安全キャップが外れているか確認し、もう一度強く押す
- 投与後は針先を硬いものに押し当てて折り曲げる(針刺し事故の防止)
- 使用済みの注射器は傷病者と一緒に残し、何本使ったかが医療者に分かるようにする
投与後は、直ちに自分と傷病者を汚染区域から離脱させること。
⑦ 使ったあとの記録
- ホットゾーン等で使用した場合 … 傷病者の右手の甲にスキンマーカー等で「T」と記載する
- ウォームゾーン・コールドゾーン等で使用した場合 … トリアージタッグに次を記載する
解毒剤自動注射器を使用した旨/使用した本数/傷病者の氏名または識別記号/使用者の隊名及び氏名/使用した時刻
- 他の部隊に引き継ぐ際は、使用した旨を確実に伝達する
- 救急隊は、搬送先の医師に使用した旨を確実に伝達する
- 使用後はすべて回収する。未使用・開封済未使用も含めて本数を管理する
⑧ 注意すること
| 項目 | 内容 |
| 心血管系 | 頻脈・動悸・不整脈を起こすことがある。心疾患のある人には注意 |
| 熱中症 | アトロピンは発汗を抑える。暑い環境や防護服での活動中は体温が上がりやすい。使用後は過度な活動と暑熱を避ける |
| 緑内障 | 急性緑内障を誘発することがある |
| 尿閉 | 排尿障害のある人では尿が出なくなることがある |
| 慢性肺疾患 | 分泌物が粘くなり、気道をふさぐことがある。呼吸状態を観察する |
| 誤って打った場合 | 中毒でない人に打つと、口の渇き・かすみ目・ふらつき・集中困難が出る。3本では幻覚・見当識障害が出ることがある。暑熱と激しい運動を避け、医療機関を受診する |
| 観察期間 | 投与した人は48〜72時間の厳重な観察が必要とされる |
これは応急的な処置です。投与しても、確定的な医療を直ちに受けさせることが前提です。
⑨ 迷ったときは専門家に助言を求める
次のいずれかに当てはまるときは、判断せず助言を求めます。
- 要件1〜3のいずれかに該当しない
- 該当するかどうかの判断に迷いが生じた
- 化学剤検知器がない
伝えること(これだけ言えば足りる)
| 項目 | 例 |
| 災害状況 | 場所と状況「◯◯で多数の傷病者が発生しています」 |
| 蓋然性 | 「自力で動けない傷病者が3名以上。重症外傷の事案ではない。爆発や出血はない」 |
| 症状 | 「症状5項目のうち、2項目(鼻汁・流涎)が該当」 |
| 検知器 | 「神経剤の陽性アラートが発報」または「発報はありません」 |
| 要件該当数 | 「要件1・2・3のうち、2つのみ該当です」 |
連絡先は所属の運用要領に定められた専門家を優先します。このツールには内部の連絡先を載せていません。
一般に公開されている急性中毒の相談窓口は下記です。
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